『82年生まれ、キム・ジヨン』–映画ポスター「大丈夫、あなたは一人じゃない」になぜ違和感を感じるのか-

『82年生まれ、キム・ジヨン』–映画ポスター「大丈夫、あなたは一人じゃない」になぜ違和感を感じるのか-

『82年生まれ、キム・ジヨン』はなぜ、ヒットしたのか

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82年生まれ、キム・ジヨン チョナムジュ/著 斎藤真理子/訳
価格:1650円(税込、送料別) (2020/6/21時点)


チョ・ナムジュ作の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』。この作品では、主人公であるキム・ジヨンはある日を境目に精神崩壊を起こし、自分の母親や友人の人格が憑依したように振る舞い始める姿が描かれています。

これら振る舞いは、精神的な影響からくるものであり、その影響は彼女が「女性」として生まれた1982年から始まっています。『82年生まれ、キム・ジヨン』は主人公キム・ジヨンが学生時代、受験、就職、結婚、育児の中で、女性として受ける差別、不平等、そして理不尽な扱いを描いている作品です。

この作品の素晴らしさは、女性が経験する差別は「日常に溶け込んでいる」ことを描けていることであり、当事者である女性であれば、「私が普段経験しているのはこれだ!」と頭を頷きながら共感できる内容であることです。本の内容の何かしらは女性として生きてきた以上実人生で経験したことがあるものであるからこそ、大ヒットしたのでしょう。

映画のポスター「大丈夫、あなたは一人じゃない」の違和感

さて、この大ヒット作品は映画化され日本でも10月に上映されることが公開されました。しかし、その上映に向けて発表されたPRポスターに、違和感を持った読者が多くいます。

ポスターに書かれている「大丈夫、あなたは一人じゃない」になぜ私たちは違和感を持ってしまうのでしょう?

原作では女性が日常的に経験する差別を、一般的な女性ペルソナを通して伝えてくれています。主人公が「あたりまえな日常」に潜んだ「差別」や「不平等」をあまり反応もせず、疑問も持たず過ごしていることが文章からは伝わってきます。しかし、同時に差別が主人公の心を蝕み、日常的に差別と「一人で戦っている」ことで主人公は精神崩壊を起こしてしまいます。

さて、ポスターの「大丈夫、あなたは一人じゃない」は誰が誰に発している言葉なのでしょうか?

仮にパートナーである男性や、当事者ではない人が発信している場合「自分が女性を苦しめている社会構造の一部を作り出してしまっている」ことを全く無視し、「女性の悩みなんだから、女性が解決しなよ。まぁ支えはするよ。」といった他人事の発言に聞こえてしまいます。また、「一人で抱える必要ないよ」というあたかも「優しさ」のような発言に対していやいや、今まで差別に誰も気づいてくれず、一人で悩んで苦しんでいたからこうなったんだよとツッコミたくなってしまいますよね。

原作では、多くの女性が日常的に不平等にさらされ、自分を見失いそうになっていることそして不平等や差別がいかに日常から生み出されているか、そしてそれらを伝える・訴える行為がどれだけ難しいか、を描いています。それに対し「大丈夫、あなたは一人じゃない」は本の本質から離れてしまっているため違和感を持つ読者が多いのでしょう。

ジェンダーロール(性別役割分担)が辛い現代女性

ジェンダーロールとは、「
性別によって社会から期待されたり、自ら表現する役割や行動様式。性別役割。性役割。」(ことばんくより)のことを指します。

私たちの社会は生まれ、「女・男」だとわかった瞬間から、それらしい振る舞いを求めます。「女の子なんだから、優しくないといけない」「男の子なんだから、泣かないの」などと〇〇の性別なのだから〜という理屈で、社会で「正しい」とされる行動や役割を押し付けてしまっていることが多くあります。

『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公は人生を通して女性が求められる役割や全うしようとした、受け入れようとした結果精神崩壊を起こしました。

もしかしたら、この本の主人のように精神崩壊を起こさなくても、「私って結局誰なんだっけ?」とアイデンティーや自分らしさ、一個人としての認識ができなくなってしまっている現代女性も多くいるのでは?

今まで「社会が求めてきた女性像」そして「性役割」を全うしてきた女性(そして女性だけに限らず男性も)は、必死に自分が社会に求められる姿を実現してきたかもしれません。しかし自分で決めた「自分」が見えなくなってしまうことは辛いものです。

自分を押し殺して社会の一員として生きていくのか、それとも一人一人が自分の生きたい人生を全うできる社会を作るのか、私たちは『82年生まれ、キム・ジヨン』の原作、そして映画を通して問う必要があります。

社会のマイノリティ(今回は社会的な権力が男性よりも女性の方が少ないので女性を”マイノリティ”と表します)がどのような経験をしているのか、マジョリティが耳を向けなければいけないということを、2020年の様々な社会運動を通して改めて考えさせられます。

不平等な社会を作っている「当事者」になっていないか「大丈夫、あなたは一人じゃない」と他人事になっていないか、改めて自分を見つめなおす必要があるでしょう。

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